高齢者人口の増加と糖尿病患者の増加により、本邦における最近の血管疾患患者の疾患構造が変化しつつある。すなわち、閉塞性動脈性硬化症に患者が増加するのみならず、細動脈にまで広がる瀰漫性病変が頻繁に見られるようになってきた。したがって閉塞性動脈硬化症による慢性動脈閉塞により発症した重症虚血肢患者では、細動脈への血行再建手術の可否がその患者のQOLを決める重要な要素となっている。しかしこのような手術においては、満足できる開存率を有する人工血管がないため、自家静脈をグラフト材料として用いることが第1選択となっているのが現状である。また下肢の血行再建では再手術が必要となる場合も多く、すでに自家静脈を使用しているためにグラフト材料の選択に難渋することもしばしばである。したがって、閉塞性動脈硬化症患者が増えれば増えるほど自家静脈に匹敵する成績を有する人工血管のグラフト材料の必要性は高まり、その開発が急務であると考えられるが、現在臨床的に使用可能な小動脈用のバイパスグラフト材料は存在しない。したがって本研究の目的は、臨床で使用可能な小口径の人工血管を開発するための基礎的データを得ることにある。平成21年度は、バイパス手術で得られたヒト大伏在静脈を用い、静脈から平滑筋細胞を採取し初代培養を施行した。続いてIn vitroで3次元構造を構成させるための培養条件、細胞移植方法の検討を行うため、まず低温保存(4℃)したメールジェル(液状化)に、平滑筋細胞と、ウシ胎児血清あわせ、インキュベーター内に静置、ゲル化させ培養を行いメビオールジェル内で3次元培養が可能なことを確認した。今後はメビオールジェル内での細胞密度を上昇させるために、使用する増殖因子、細胞の数などの検討を行って行きたい。
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