V型コラーゲンα3鎖(以下α3(V))が有する癒着防止がどのような機序で起こっているかを調べるため、実験計画に基づき以下の実験を行った。 (1)創傷部のコラーゲンα3(V)を含む、癒着を生じにくい一部のコラーゲンマトリックスと、ヘパリン硫酸の局在が一致するという結果に対し、臍帯、羊膜等の常時α3(V)を多く含む別の組織で免疫電顕二重染色による観察を行ったところ、同様にコラーゲン線維周囲にα3(V)鎖が絡み付くように局在すること、そしてα3(V)とヘパリン硫酸鎖が共局在すること、そしてコラーゲン線維収束の抑制が確かめられた。α3(V)鎖を含まない正常真皮の発生ではヘパリン硫酸鎖は全く見られなかった。対照的にコンドロイチン硫酸鎖は全てのコラーゲン組織に均等に存在し、コラーゲン線維の集束の抑制は観察されなかった。これにより、ヘパリン硫酸鎖がコラーゲンα3(V)鎖の局在に対し特異性をもって配置し、両者が線維束周囲に位置することによって部分的なコラーゲン線維の集束を抑制するメカニズムが考えられる。 (2)前年度に作製したpcDNA3ベースα3(V)発現ミニジーンを、NIH3T3細胞に導入し、コラーゲンスポンジ上で培養を行った。しかしながら培地中へのα3(V)産物はみられるものの、培養担体上へのコラーゲン蓄積が認められなかった。分泌されたコラーゲンを沈着させる条件について検討が必要である。 (3)α3(V)のバイオアッセイを行う目的でマウスの胎盤と羊膜より、α3(V)を含むコラーゲンを抽出した。しかしながら確保できる量が少ないため、培養細胞による強制発現、ウシを用いた精製物がどのくらい使えるか等の検討が必要である。大腸菌由来のα3(V)蛋白を用いた初代線維芽細胞に対するバイオアッセイを行ったところ、強い細胞接着活性、細胞伸展活性が確認され、細胞増殖は影響がなかった。マウス個体創傷部への投与では、特別な効果は見られなかった。今後ネイティブなα3(V)による試験が必要である。
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