【研究の背景、目的】ABCC11はATP Binding Cassetteトランスポータースーパーファミリーの1種で、詳細なメカニズムに関してはまだ解明されていない。2006年1月のNatureにこのABCC11の1か所(cDNA 538G)に遺伝子多型がおこると耳垢型が、湿性から乾性になることが報告された。1971年7月のScienceでは耳垢が湿性タイプだと乳癌の予後が悪く、欧米では9割が湿性でアジアでは逆に多くは乾性のため乳癌の死亡率に差が出ているのではないかという報告がされていた。そこで乾性タイプが約8割を占める日本において、乳癌患者と、コントロールのABCC11の遺伝子多型を理研で開発されたSMAP法で解析し、各群の湿性、乾性の割合を出し、罹患率に有意差が出るか、また患者群において湿性と乾性で予後に有意差が出るかを検討した。【研究結果】当院の日本人女性乳癌患者270名とコントロールの日本人女性273名から同意を得て採血し、遺伝子解析した。患者ではABCC11湿性型が24.8%、乾型75.2%、コントロールは湿性型が16.8%、乾型83.2%であり、p=0.026、Odds比は1.63倍と有意差を認めた。患者群における臨床病理学的因子の検討を行ったが、湿性型と乾性型とで有意差は認められなかった。この結果は論文として英文誌(Anticancer Res.に掲載した)。現在は、ABCC11陽性症例での予後について追跡調査を行っている。また、ABCC11は薬剤耐性の原因になると考えられており、トランスポータースーパーファミリーのタキサン系抗がん剤に対する耐性機序についても検討している。これらの結果に基づいて、ABCC11遺伝子多型高リスク群に対する個別化検診、個別化治療について研究を進めていく予定である。
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