癌の多様性、浸潤・転移能力の獲得、薬剤耐性の獲得等を説明する理論として、「癌幹細胞理論」に基づいた研究が昨今内外で盛んに行われており、特に抗癌剤耐性獲得機序を説明する上で、その理論的根拠となる有力な候補として考えられているが、本研究の目的はこの抗癌剤耐性獲得という、癌の臨床上重要な現象に焦点を当てることにより、癌幹細胞理論の是非を検証を行うことである。最終的には外科的切除がなされた臨床乳癌検体を用いて研究を遂行することが目的であるが(次年度以降)、この前段階として、我々は乳癌細胞であるMCF7(ER陽性)及びMDA-MB231(ER陰性)の二種類の細胞株を用いて、マウス異種移植モデルを作成し、形成された腫瘍の癌幹細胞分画を同定することを試みた。MDA-MB231細胞は免疫不全マウスにおいて良好に腫瘍を形成したが、MCF7は腫瘍の形成が認められなかったため、本細胞株にactivated-HRASをレンチウイルスベクターを用いて導入したところ、腫瘍の形成が認められた。現在この両者に対して、docetaxel及びdoxorubicinの投与が行われ、至適な投与量と腫瘍経の変異を観察しているが、個体間における差が大きいため、安定した系を作成するために努力が払われている。一方でMDA-MB231細胞にはGFPもしくはアポトーシス誘導因子であるcaspase-8のテトラサイクリンによる誘導発現系が導入され、これら細胞を用いて「擬似的に癌幹細胞を標的とした治療」を実現し、癌幹細胞を標的とした治療の有用性を検証する研究に派生している。今後はこれら基礎データを蓄積し、臨床検体における癌幹細胞のソーティングへ移行していく予定である。
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