本研究の目的は抗癌剤耐性獲得という、癌の臨床上重要な現象に焦点を当てることにより、癌幹細胞理論の是非を検証を行うことである。癌の多様性、浸潤・転移能力の獲得、薬剤耐性の獲得等を説明する理論として、「癌幹細胞理論」に基づいた研究が昨今内外で盛んに行われており、特に抗癌剤耐性獲得機序を説明する上で、その理論的根拠となる有力な候補として考えられている。平成22年度は、前年度に続いて乳癌細胞であるMCF7(ER陽性)及びMDA-MB231(ER陰性)の二種類の細胞株を用いて、マウス異種移植モデルを作成し、形成された腫瘍の癌幹細胞分画を同定することを試みた。MDA-MB231細胞は免疫不全マウスにおいて良好に腫瘍を形成したが、MCF7は腫瘍の形成が認められなかったため、本細胞株にactivated-HRASをレンチウイルスベクターを用いて導入したところ、腫瘍の形成が認められた。さらに、この両者に対して、docetaxel及びdoxorubicinの投与が行われ、至適な投与量と腫瘍経の変異を観察し、安定した系を作成することが可能であった。特に、MCF7-Hrasを用いた異種移植モデルでは、抗癌剤のみならずホルモン療法であるタモキシフェンの投与と腫瘍経の推移について重要な知見が得られ、現在このホルモン療法と癌幹細胞の増減の関係を明らかにする研究が進行中である。今後はこれら癌幹細胞と抗癌剤・抗エストロゲン剤による薬物療法との関係を解明し、最終的には外科的切除がなされた臨床乳癌検体を用いて研究を遂行し、これら薬物療法の耐性化獲得機構を明らかにすることが目的である。
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