乳酸菌の一つであるラクトバチルス属は通性嫌気性のグラム陽性桿菌である。ヒトの腸管内に存在する非病原性常在菌で、食品工業において古くより有用な菌である。 近年固形腫瘍の酸素分圧が低いことに着目し、ビフィドバクテリウム属のような偏性嫌気性菌を用いた腫瘍選択的なデリバリーシステムの研究がなされており、臨床応用が検討されている。 今回我々は偏性嫌気性となったラクトバチルス・カゼイを用いて、固形腫瘍への集積性と正常組織への非生着性、固形腫瘍の増殖抑制効果を検討した。 方法:マウス(C57BL/6オス7週齢)の右鼠径部にマウス肺癌細胞(ルイスラングカルチノーマ)を皮下注入し担癌マウスを作成した。腫瘍径が5mmとなったところで偏性嫌気性のラクトバチルス・カゼイ菌(KJ686菌)をマウス尾静脈より2日間投与した。またKJ686菌を投与しない群をコントロール群とした。 結果:経過観察中に菌の投与によると思われるマウスのADLの低下や死亡はなかった。KJ686菌の投与から9日後のマウスの腫瘍、肝臓、肺を摘出し、ホモジナイズしてMRS寒天培地で嫌気条件下に37℃で培養すると腫瘍にのみコロニーの形成を認めた。 KJ686菌初回投与時の腫瘍体積を基準として腫瘍増殖率を検討した。投与開始3日にはKJ686菌投与群の増殖率はコントロール群に比べて有意に減少し始めていた。その差は徐々に増大した。 結論:偏性嫌気性菌であるKJ686菌は酸素分圧の低い固形腫瘍に特異的に集積し、酸素分圧の高い正常組織では排除されていた。このことからKJ686菌は腫瘍選択的なデリバリーシステムのキャリアーとして有用である。またそれ自身の持つ腫瘍増殖抑制効果との相乗効果を考えると高い治療効果が期待できる。
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