研究概要 |
目的:SATB1は乳癌転移の新規促進因子として報告された。また、リンパ節転移の促進因子であるVEGF-Cの受容体はVEGF受容体3(VEGFR3)である。可溶性VFGFR3(sVEGFR3)はVEGF-Cと結合し、本来の受容体であるVEGFR3への結合を阻止する。そこでこれらの機能を低下させる治療戦略で乳癌転移の抑制を試みた。方法および結果:BJMC3879Luc2乳癌細胞(ルシフェラーゼ遺伝子を組み込んである)をBALB/cマウス雌に移植し、週1回、腫瘍内にベクター(空ベクター,SATB1siRNA [psiSATB1]およびVEGFR3デコイ[psVEGFR3])を遺伝子導入し、実験終了の6週まで実施した。その結果、経時的な腫瘍体積はpsVEGFR3群で、実験開始の2週後より実験終了まで有意な抑制が観察された。実験終了時の発光によるバイオイメージング解析では、腫瘍の拡がりはこの群で抑制傾向が観察された。病理組織学的解析では、リンパ節転移および直径1mm以上の肺転移巣の個数は、psVEGFR3群で有意な抑制が示された。リンパ管内皮のマーカーであるpodoplaninに対する免疫組織染色を施し、観察すると、腫瘍内リンパ管内に腫瘍細胞が浸潤している像が各群に散見された。これをマウス1匹当たりのリンパ管侵襲の数として解析すると、psVEGFR3群では有意な低下が観察された。新生血管内皮のマーカーであるCD31免疫組織染色を施し、腫瘍内の血管密度を解析した結果、各群間に差異は見られなかった。結論:高転移性マウス乳癌モデルにおいて、VEGF-Cと結合してその機能を喪失させるsVEGFR3デコイは、有意な転移抑制作用をもたらした。一方、乳癌の増殖と転移に関わると報告された新規のSATB1遺伝子に対するsiRNA発現ベクターには抗腫瘍効果は発揮されなかった。
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