私たちは白血病細胞の分化誘導剤として見出してきた物質が固形癌細胞に対しても有効な抗癌作用を示すことができるかどうかを検討している。私たちはすでに、植物成長制御因子として報告されているcotylenin AおよびmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害剤であるrapamycinが白血病細胞に対する強い分化誘導剤であることを報告している。さらに、cotylenin Aとrapamycinがヒト乳癌細胞MCF-7の増殖を相乗的に抑制することを見出している。また、MCF-7細胞をヌードマウスに移植した実験系でも、cotylenin Aとrapamycinを併用処理した場合、それぞれ単独処理よりも顕著な抗腫瘍効果を示すことを見出した。しかしながら、これら分化誘導剤の併用による効果のメカニズムは未だ不明である。私たちは最近、癌細胞おいて高頻度に活性化されているAkt/mTORシグナル経路について検討し、cotylenin Aがrapamycin処理で誘導されるAktのリン酸化を顕著に抑制することを見出した。このrapamycinによるAktリン酸化の誘導はrapamycin自身の増殖抑制効果を減弱させるものと考えられている。今回は、AktまたはAkt上流のシグナルを標的とする薬剤とrapamycinを併用した場合に、cotylenin Aを用いた場合と同様な増殖抑制効果を示すか否かを検討した。さらに、rapamycinとの併用効果を示すcotylenin A類似体または併用効果を示さないcotylenin A類似体のrapamycinによるAktの活性化の誘導に対する効果も検討した。その結果、rapamycinが誘導するAktリン酸化のcotylenin Aによる阻害が、cotylenin Aとrapamycinによる相乗的増殖抑制効果と密接に関連していることを明らかにした。
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