われわれはin vivoでの潜在型TGF-β1活性化の機序を解析するために潜在型TGF-β1を変異させLTBPと結合を不可能にしたマウス(変異型TGF-β1ノックインマウス)を作製し、このマウスにおいて生後4週から肺炎、心筋炎、大腸炎が発症し、生後8-12週で炎症が慢性化すること、この慢性炎症により胃癌、直腸癌、肛門癌を自然発症することを明らかにしてきた。さらにサイトカイン遺伝子発現検索や腸管粘膜リンパ球の解析の解析でTregやTh17が低下しており、このことと慢性炎症の発症が生じることを明らかにした。 さらに、TGF-β1ノックアウトと変異TGF-β1ノックインマウス交配を行い作製されたnull/ノックインマウスの解析では、血漿中の活性型TGF-β1、潜在型TGF-β1量はコントロールマウスに比べ、減少しており、生後12週のマウスでの胃癌の発症頻度は67%となることがわかった。その一方で、直腸炎の頻度は減少し、それに伴い癌の発症頻度は減少することが解かり、胃癌と直腸癌では活性型TGF-β1発現量と発癌との関連に機序の相違があることが示唆された。 生後12週の野生型、ホモの変異型マウスの胃および直腸組織からDNAを抽出し、ゲノムCGHアレイを行い、胃においてはコピー数が有意に増加したlocusを4カ所、欠失したlocusを11カ所、直腸においてはコピー数が有意に増加したlocusを2カ所、欠失したlocusを3カ所同定した。現在、定量的PCRにてアレイの結果を検証している状況である。 また、培養細胞株、臨床検体において潜在型TGF-β結合タンパク2および4の免疫組織化学染色法を用いて発現の解析を行い、癌細胞、組織で高発現していることを見いだした。現在、その発現の臨床病理学的意義の検討のため統計学的解析を行っている。
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