研究概要 |
大腸癌の進展において最も重要と考えられるK-ras変異の下流変化のうち機能的に重要な分子機序を同定し、根治不能な大腸癌における新規治療法の確立、根治可能な大腸癌における補助療法の開発を目指した研究を企画した。具体的にはK-ras変異とMAL-Iレクチンの相関をレクチンアレイで見出したポイントが研究の開始点にあった。MAL-Iはalpha 2,3シアル酸の結合した糖鎖構造であり、大腸癌や胃癌において悪性度の高い癌の特徴であることが報告されている。したがって、本機序に関わる遺伝子の同定およびその酵素活性の抑制は大腸癌の治療戦略に極めて重要である可能性が示唆される。われわれは、2,3シアル酸認識糖鎖に構造に影響を与えることで知られる2つの糖鎖合成酵素ST6GalNac6,DTDSTの発現に注目して研究を進めた。その結果、両酵素の発現がK-ras変異の状態によって変化することは判明したが、その両者が2,3,シアル酸を認識するMAL-I増加に一致するものではないことが判明した。また、これらの遺伝子変化は細胞密度によって大きく影響されるものではないことも判明し、K-ras変異を有する癌細胞は、細胞密度および細胞の状態により多種多様な遺伝子変化を有することが明らかになった。この問題を解決すべく、われわれはK-ras変異によるレクチンシグナル変化が細胞、培養密度の条件に関わらないことを示し、その両者の条件において説明しうる等鎖遺伝子を包括的に検討すべく研究を展開中である。K-ras変異株のTGF-betaとのかかわりについて新たな知見を得たいと当初考えていたが、K-ras変異時代に複雑性がみられまずはこちらの解明が重要だと考え後半のテーマは進めていない。一方、K-ras変異についての臨床病理学的解析は順調に進行しDukes Cにおける予後因子として報告できた。面白いことにその臨床的意義は若年結腸癌に限った場合に特に強く、MSI陽性癌との関係が今後特に注目されると考えられた。
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