目的:消化管の最外層を構成する腹膜面は、再生修復の結果として周囲組織と瘢痕癒着する。この癒着は腸管を周囲組織に固定し、その結果、腸管蠕動運動が阻害される。つまり蠕動運動をする腸管再生には、再生過程における腹膜面の再生と周囲組織との癒着形成というジレンマがあり、蠕動する腸管の再生には、腹膜面を再生しかつ癒着を防止する必要がある。この作用を持つ再生の足場として当初は羊膜を使用する予定であったが、動物実験でも臨床使用でも羊膜の使用が困難となったため、前年度から比較的容易に実験で使用可能な代替品を開発した。方法:腹膜再生の足場として使用が困難になった羊膜の代替品となる新規の足場、すなわち比較的容易に実験で使用可能な熱架橋ゼラチンを、H21年度には開発した。H22年度では、この熱架橋ゼラチン膜を使用して、腸管組織欠損部位の再生と癒着を検討するモデルとして、ビーグル犬の小腸腹膜と筋層表面をサンドペーパーで欠損損傷させた。この欠損部位に新規開の熱架橋ゼラチン膜または従来の癒着防止材を貼付し、無治療群には何も貼付しなかった。3、6週後に腸管を採取して肉眼的病理組織学的にこの部位の癒着と瘢痕形成、更に腹膜の再生の程度を、HE染色のみならず免疫染色をも併用して検討した。結果と結論:無治療群では、肉眼的に顕著な癒着を認め、病理組織学的に癒着を示す瘢痕組織の形成を認めたが、腹膜の再生は認めなかった。一方熱架橋ゼラチン膜や従来の癒着防止材の貼付部位は肉眼的に癒着は極めて軽度で、対照群と有意の差異を認めた。熱架橋ゼラチン膜群では、3週間で腹膜の再生を認めたが、従来の癒着防止材では腹膜の再生は認めなかった。この結果は、熱架橋ゼラチン膜は腸管組織再生の足場として使用可能であり、癒着防止と腸管腹膜再生を両立可能な新規の再生足場として、腸管再生に有用であることを示唆している。
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