研究課題
本研究は、肝再生能力が加齢に伴い低下し、そのメカニズムの一つに肝幹細胞が何らかの役割を果たしているという仮説を確かめるために立案した研究である。平成23年度は、昨年、一昨年に引き続き、実際に当院で行われたドナー手術において、術後1週間・1カ月後の肝再生能力を年齢別に検討した。ドナー手術は、ヒトにおける正常肝の肝再生が観察可能な唯一の疾患モデルであり、臨床における肝再生を論ずるには最適と言える。その結果、若年ドナー(30歳未満)の1週間後の残肝肥大率が、高齢ドナー(50歳以上)に比して有意に高いとの結果に確信を得た。術後1ヶ月後の残肝肥大率に関しては、若年ドナーと高齢ドナーとの間に有意差を認めなかった。この肝肥大率の差は、右葉graft、すなわち残肝volumeが小さい方がより顕著となる傾向があった。年齢による肝再生能力の違いに肝幹細胞が関与していることを確かめるために、生体肝移植ドナー肝の0-biopsy検体または、転移性肝腫瘍の正常肝組織の一部を患者の同意のもとに採取し(倫理委員会承認済み)、ヒト正常肝の幹細胞マーカーとして有用性が報告されているThy-1をマーカーにして肝幹細胞の分離を試みた。肝組織はmince後collagenaseによる消化・分解を行い、その後、実質細胞と非実質細胞に遠心分離し、非実質細胞の細胞数をcountし、非実質細胞中に存在するとされるThy-1陽性細胞をMACS(magnetic activated cell sorting)にて識別・分離した。年齢別にThy-1陽性細胞のpopulationを比較検討したが、高齢になるにつれてThy-1陽性細胞のpopulationが低下する傾向を認めた。これらの成果を英文でまとめ、欧文誌「Surgery」に投稿した。比較的major reviseが返されたが、ひとつひとつ丁寧に対応することにより、acceptされすでに掲載された。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Surgery
巻: 150 ページ: 154-161
PMID:21719061