腫瘍血管新生の構築過程における分子生物学的多様性を解明し、それに応じた新たな分子標的治療を開発する一方、抗腫瘍血管新生療法の限界を打破するため、血管新生に依存せず低酸素状態で増殖可能な腫瘍におけるエネルギー獲得機構の解析を行い、それに基づく分子標的治療法の開発を行うことを目的とした研究を進めた。転写因子KLF5は、心血管リモデリング、血管新生に重要な働きを担っており、また、大腸癌ではKRAS変異に伴いRaf/MEK/Erk経路を介して癌の増殖、転移に関与していることが報告されている。そこで、KRAS変異率が約80%と高率で、極めて予後不良な癌腫である膵癌におけるKLF5のシグナル伝達経路を解析した。大腸癌と異なり、KRAS変異の有無にかかわらず各種膵癌細胞株でKLF5は高発現であり、MEK/Erk経路やSAPK/JNK経路ではなく、P38経路に依存していた。また、KLF5のシグナル伝達の上流には、低酸素により誘導されるHIF-1αが存在し、下流には、PDGF-A、Survivinが存在し、膵癌の増殖、転移に関与することを突き止めた。膵癌患者におけるKLF5の意義を明らかにすべく、臨床切除標本を用いて免疫染色を行い、腫瘍血管新生、低酸素環境、臨床病理学的因子、予後との関連を検討中である。過去の膵癌患者切除標本のパラフィン包埋切片を用いた免疫染色を行っているが、HIF-1αとKLF5に対する抗体の選択や至適条件設定に難渋している。
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