腫瘍血管新生の分子生物学的多様性を解明する一方、抗血管新生療法の限界を打破するため、血管新生に依存しない低酸素環境における腫瘍の増殖機構を解析し、それに基づく治療標的分子の探索を行った。転写因子KLF5は、心血管リモデリング、血管新生に重要な働きを担っており、また、大腸癌ではKRAS変異に伴いRaf/MEK/Erk経路を介して癌の増殖、転移に関与していることが報告されている。そこで、KRAS変異率が約80%と高率で、極めて予後不良な癌腫である膵癌におけるKLF5のシグナル伝達経路をin vitroで解析した。大腸癌と異なり、KRAS変異の有無にかかわらず各種膵癌細胞株でKLF5は高発現であり、MEK/Erk経路やSAPK/JNK経路ではなく、P38経路に依存していた。また、KLF5のシグナル伝達の上流には、低酸素により誘導されるHIF-1αが存在し、下流には、PDGF-A、Survivinが存在し、膵癌の増殖、転移に関与することを突き止めた。膵癌におけるHIF-1αとKLF5の臨床的意義を明らかにすべく、RO手術を受けた53例の膵癌患者の切除標本を用いて免疫染色を行い、臨床病理学的因子、予後との関連を検討した。免疫染色が困難といわれる膵癌切除標本のパラフィン切片を用いて、抗体の選択や至適条件設定を確立した。患者生存期間は、癌細胞におけるHIF-1α高発現症例およびKLF5高発現症例で有意に長く、両者の発現分布が一致している症例で長い傾向であった。この結果は、様々な癌腫でHIF-1αが予後不良因子であるとの既報や我々のin vitroの結果に反しており、その解釈に難渋している。肝細胞癌に対する分子標的薬ソラフェニブは、抗血管新生効果も有しているが、肝移植前後での投与の効果や副作用については未知である。肝細胞癌の根治をめざし肝移植を行っても肝癌が再発すると予後は極めて悪い。ラットを用いて肝移植後肝癌モデルを作成中である。
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