平成21年度は間葉系幹細胞純化と新規間葉系幹細胞特異的表面抗原の同定を行った。膵癌手術切除標本の免疫染色による分析では、特定の表面マーカー陽性の間質細胞が多く認められるほど、Overall survival rateは不良であり、陽性間質細胞が陰性間質細胞より癌細胞を支持するニッチとしての大きな役割を果たし、膵癌の生物学的悪性度を増悪させていることが明らかとなった。この結果を基に、陽性間質細胞の分子生物学的性質を明らかとするために、膵癌手術切除標本より、膵癌間質細胞である膵星細胞株を樹立し、セルソーター技術を用いて、陽性膵星細胞を純化した。純化した陽性膵星細胞株と陰性膵星細胞株をそれぞれ膵癌細胞株であるSuit-2およびPanc-1と間接共培養を行ったところ、陽性膵星細胞株が陰性膵星細胞株より、膵癌細胞株の浸潤能をより増強させた。次にIn vivoにおいて、Suit-2と陽性膵星細胞株および陰性膵星細胞株とを異所共移植を行ったところ、陽性膵星細胞株との共移植を行ったマウス群の方が形成された腫瘍体積が優位に大きかった。このことより、陽性膵星細胞は、In vitroおよびIn vivoのどちらにおいても、膵癌の悪性度を増強させることが示された。陽性膵星細胞が膵癌細胞株の浸潤能を増強させる機序を分子生物学的に検討するため、浸潤に関連する蛋白質であるMMPに注目した。陽性膵星細胞株と共培養したSuit-2およびPanc-1の膵癌細胞株は、陰性膵星細胞株と共培養した場合に比較し、ある特定のMMPの産生能がRT-PCRおよびウエスタンブロッテインでの検討により、増加していた。続いて、膵癌細胞株のある特定のMMPをsi-RNAを用いて抑制すると、陽性膵星細胞による膵癌細胞株の浸潤能が抑制された。このことより、陽性膵星細胞は膵癌のある種のMMPの産生を増加させることで膵癌の浸潤能を増強させ、膵癌の悪性度を増していることが明らかとなった。以上より、膵癌における星細胞にも様々なphenotypeが存在し、癌細胞同様、膵間質に存在する膵星細胞もその機能は一様でなく、一部の特定の膵星細胞だけがニッチとして機能し、癌の進展に関わっている可能性があることが明らかとなった。このことは、特定の細胞表面マーカーを標的とした新規膵癌治療を開発への可能性を切り開く重要な発見と思われる。
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