研究概要 |
臓器移植における臓器保存時間の許容範囲は心臓移植では4時間とされている。虚血温度に関しては氷晶を作るまでは低い方がよいとされ、現実的には4℃で保存されている。が、過冷却物質を使用すればより長時間の心保存が可能となる。我々は極寒のシベリアに何億年も前から生息している植物に注目し、そこから抽出された多糖類のケンフェロールに着目した。本物質は自然界に広く存在する植物由来物質であり、しかも食物添加物質として既に国内でも認可されている物質である。本研究ではこのケンフェロールを用いてラット心臓過冷却保存モデルで24時間超長時間心保存法を開発することを目的とする。 初年度はケンフェロールの基本的性能を確認する。動物実験モデルとしては、ラットを用いた異所性心臓移植モデルで、移植免疫反応の影響を除外するため、同種同系移植とする(Lewis ratからLewis ratへ)。 ドナーとなるLewis rat(Charles River Japan Inc, Yokohama, Japan ; Lew)に腹腔内投与による全身麻酔をかけヘパリン投与の後心臓を摘出する。この心臓をUW液でflushしケンフェロール1mg/ml含有UW液に浸漬する。初年度はこの保存温度をマイナス5℃、マイナス2℃、プラス4℃の3群とする。一定時間の保存の後、レシピエントラット(Lewis rat)の腎動脈下腹部大動脈・下大静脈に9-0ナイロン糸(Bear, Chiba, Japan)を用いて端側吻合(連続縫合)を行い、異所性心移植を施行する。保存時間は、臨床での限界時間とされている4時間をはるかに超える12、18、24時間の3群を作成する。心臓の冷保存は、温度可変式ディープフリーザー(ツインバード社、SC-DF25、Yokohama, Japan)を用いて管理する。移植再灌流後は腹壁表面からの心拍動触知により心拍動時間を計測し、24時間以上拍動が持続したものを冷保存成功例とみなすこととする。各保存時間ごとにn=4~6の実験を行い、冷保存成功率を算出した。その結果、マイナス2℃での保存効果が最良であった。今後、心筋の病理検索を行う予定である。
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