研究概要 |
私たちは、クロム酸塩に暴露したクロム工場労働者に発生した肺癌(ヒトクロム肺癌)では、microsatellite instability(MSI)は高頻度であることを報告してきた。最近、MSIを示す大腸癌や胃癌で、二本鎖DNAの切断(DNA double strand break)時の修復の機横の中心的役割を示す各遺伝子の異常が高頻度で認められている。MRE11には、イントロン4のpoly(T)11(チミンが11個並ぶ)領域があり、RAD50には、エクソン13に(A)9(アデニンが9個並ぶ)領域があり、NBS1には、(A)7領域がある。クロム肺癌では、これらの領域の異常を生じ、その蛋白の発現が低下し、DNA double strand breakのDNA修復の機能に破綻をきたしている可能性がある。 クロム肺癌28例38病変および、その正常リンパ節組織28例(ホルマリン固定パラフィン包埋材料)からDNAを抽出した。MRE11には、イントロン4のpoly(T)11領域について異常があるどうか、を検討した。ホルマリン固定パラフィン包埋材料から抽出したDNAなので、PCRの増幅効率は悪いため、nested PCR(2回PCRを行う方法)を使用した。5'-TTGAAATGAATTGTCGCCTATG-3',5'-GGCAACCTCAACATTTCAATT-3'のprimerを作成しPCR施行し、217bpのPCR productを得た。PCR productを100倍希釈し、次のPCRに使用した。5'-TGGAGGAGAATCTTAGGGAAAA-3',5'-GGCAACCTCAACATTTCAATT-3'のprimerを作成しPCR施行し、117bpのPCR productを得た。MRE11遺伝子のtarget領域を増幅できたので、direct sequence法にて塩基配列を決定した。5例のクロム肺癌と、その正常組織の塩基配列を決定した。肺癌において、3例には異常を認めなかったが、2例はpoly(T)が10,9個と短縮していた。塩基配列を確かめるため、異常症例のPCR productをTA cloning kitにてプラスミドにクローニングし、塩基配列を決定し、遺伝子異常のあることを確認した。 予想通り、クロム肺癌では、MSが高頻度であり、MRE11には、イントロン4のpoly(T)11領域に異常を認め、その蛋白の発現が低下し、DNA double strand breakのDNA修復の機能に破綻をきたしている可能性がある。
|