研究課題
1.非喫煙者肺癌の疾患概念の確立(1)本研究開始当初より、非小細胞肺癌手術症例より詳細な喫煙歴の聴取を行い、非喫煙者(生涯の喫煙本数が100本未満)と現喫煙者(禁煙期間1年未満)の症例を選別してきた。(2)最終年度は分子生物学的解析を中心に行った。解析対象症例数は非喫煙者群39例、喫煙者群27例であった。EGFR(上皮細胞成長因子受容体遺伝子)変異が非喫煙者群で66.7%、喫煙者群で33.3%に認められ非喫煙者群で有意に多かった。一方、従来より予後因子として知られているp53変異やKRAS変異の頻度は、非喫煙者群および喫煙者群の間に有意差はなかった(25.8%vs.17.4%;2.6%vs.12.5%)。(3)さらに、細胞周期調節因子p27、p16、および細胞増殖因子受容体ERβ・pEGFRの発現に関しても非喫煙者群と喫煙者群で有意差はなかった。2.非喫煙者肺癌の発がんに関与する原因の探索(1)非喫煙者肺癌の発癌に関与する原因を明らかにするために、最終年度は非喫煙症例(生涯の喫煙本数が100本未満)21例と重喫煙症例(喫煙指数400以上)28例の術前の血清酸化ストレス度および抗酸化力を比較検討した。その結果、酸化ストレスレベルは両群間で差を認めなかったが、抗酸化力はむしろ非喫煙症例群で有意に低かった。(2)上記結果をもとに、昨年度に引き続き肺切除標本を用いて非癌部肺組織内のDNA酸化障害をthymidine glycol (TG)の免疫組織化学染色法にて評価した。その結果、重喫煙症例群(27例)のTG核内陽性率は平均79%と高かったが、喫煙による直接的な酸化傷害のない非喫煙症例群(24例)においても平均72%と比較的高かった。(3)上記結果は、非喫煙症例群において抗酸化力が低いことと関連があると考えられた。さらに良性疾患症例の肺組織についても検討した。良性肺疾患症例18症例の半数は現喫煙者であり、手術前1か月以内まで喫煙をしていたが、非喫煙肺癌症例のTG核陽性率は良性肺疾患症例よりも有意に高かった。
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