肺切除にともなう術中気漏には縫合閉鎖、筋肉弁被覆、壁側胸膜被覆などの様々な手技、フィブリン糊などの組織修復接着剤、人工補強材による対策がとられてきた。手術操作にもかかわらず術後の遷延性気漏には、薬剤などによる化学的胸膜癒着術が行われている。しかし、癒着にともなう肺機能の低下や疼痛、修復接着剤、補強材の脱落といった問題がある。理想的な気漏閉鎖を実現する術中組織修復材には、呼吸にともない伸縮する肺に追従する強力な接着力、柔軟性が要求され、今回術中気漏閉鎖のための新規技術として、細胞シートを用いた再生医療的治療を提案する。本年度は、細胞シートの作製のためにラットおよび倫理委員会の承諾を得てボランティアドナーから提供していただいた皮膚よりヒトで培養条件の確立・最適化を行った。ラットでは約1週間で細胞シートが回収でき、ヒトでは約4週間要することがわかった。組織学的には、細胞外マトリックスを含んだ重層化したシートであり、間葉系マーカーであるビメンチン陽性で、皮膚線維芽細胞シートであった。作製した細胞シートの接着力、伸縮性の評価として、ラット肺に肺気漏を作製し、気漏閉鎖を行ったところ、移植した細胞シートは人工呼吸器に同期し伸縮を繰り返し、強力な接着力により肺-胸膜表面から脱落することなく、気漏を閉鎖した。移植後4週間で再開胸したところ、胸腔内と肺は癒着しておらず、胸水はなく、気漏部位に強固、密に生着していた。組織学的には、移植前の細胞シートと比べ、シート内部には細胞外マトリックスが産生されており、極めて有効な新規の組織修復材となる可能性が示唆された。
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