細胞シートを作製のための細胞調整方法に関しては、表皮側結合組織と皮下組織側結合組織で比較した場合、上皮側の結合組織のほうが細胞を多く回収可能であった。また、細胞片移植法と酵素処理による細胞の回収の差異はなかった。細胞増殖能より継代培養の条件を検討した結果、1cm平方に細胞数3千個で細胞を播種した場合、継代後5日目には培養皿はコンフルエントになった。細胞シート作製に際し、培養液の交換頻度増やすことで、細胞密度の上昇が確認できた。さらに、膠原線維の含有量を増やす試みとして、アスコルビン酸を培養液に添加することで、膠原線維は増し、細胞シートの重層化が可能であった。 ラット皮膚線維芽細胞を単離、培養し作製した細胞シートは、予備実験通りおおよそ1週間で回収可能であった。移植実験では、ラット肺を切除し肺気漏モデルを作製し、細胞シートの移植に供した。細胞シート回収までは、予測通り培養開始からおよそ1週間で可能であった。細胞シートは2枚積層した状態で肺損傷部に貼付、移植した。移植直後より気漏を閉鎖し、人工呼吸器の換気に同期した。細胞シートの生着の評価は、前年と同様に、ルシフェラーゼ陽性細胞から細胞シートを作製し、移植後4週間追跡した。さらに、移植後4週で細胞シートを移植した肺を摘出し、免疫組織学的に評価をおこなった。Fluorescent in situ hybridization法を用い、細胞シート内の細胞およびホスト側の細胞の動向を評価した。まず、細胞シート内の細胞はシート内部とどまり、ホスト側に進展することはなかった。一方、ホスト側の細胞は、細胞シートに進展し、とりわけ新生血管を構成する細胞はホスト由来であった。また、移植した細胞シート表面には、ホスト由来の胸膜中皮細胞が進展、被覆していた。線維芽細胞シートを用いた肺気漏閉鎖では、移植した細胞シートは局所にとどまり、同部で線維芽細胞が産生する細胞外マトリックスにより、気漏閉鎖ばかりでなく、胸膜面を肥厚、補強した。従来の胸膜補強材とは異なり、自身の再接着力、産生物により胸膜面を補強することが示唆され、早期の臨床応用が必要かつ可能であると考えられた。
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