研究概要 |
本研究は悪性胸膜中皮腫患者生体内における抗腫瘍免疫応答を細胞性・液性免疫両面からアプローチして新規腫瘍抗原を同定し、その機能や発現、抗腫瘍活性を解析することにより、悪性胸膜中皮腫に対する新たな診断・治療法を確立することを目的とする。本研究を遂行するため、これまでに悪性胸膜中皮腫3症例(L324症例、K921症例、N407症例)より各々腫瘍細胞株を樹立し、自己リンパ球の分離保存を行ってきた。細胞性免疫側からのアプローチとして、自己腫瘍-リンパ球混合培養により、自己腫瘍細胞障害性Tリンパ球(CTL)を誘導している。CTLクローン樹立と腫瘍由来cDNAプラスミドライブラリー作成を進めている。一方、液性免疫側からのアプローチとして、当科で考案したmodified SEREX法(プローベ:SCIDマウス血清中ヒト型IgG、cDNAファージライブラリー:腫瘍細胞株mRNAより作成)により、抗体に認識される新規腫瘍抗原としてこれまでに4種類(Gene-X,THBS-2,STUB-1,IFT-88)を同定した。このうちGene-XとTHBS-2は定量的RT-PCRにより、正常組織に比べ腫瘍組織で過剰発現していた。Gene X、Thrombospondin 2に対する抗体価を、50例の悪性胸膜中皮腫患者と健常者を対象にELISA法で測定した。健常者で定義したカットオフ値をこえるものを陽性として判定したところ、Gene-Xの陽性率は中皮腫患者で50例中23例(46%)、健常者は0%であった。THBS-2は中皮腫患者50例中42例が陽性で陽性率が84%、健常者では25例中2例で8%であった。これら二つの抗原に対する陽性率と臨床因子(性別、組織型、病期)とに有意な相関は認めなかった。Gene-XとTHBS-2に対する抗体価は、新たなバイオマーカーとしての可能性が示唆された。
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