PPARγサブユニットの作動薬であるチアゾリジン誘導体は血糖降下とインスリン抵抗性の改善作用を有する糖尿病治療薬であるが、抗炎症作用や抗動脈硬化作用、ならびにアポトーシス抑制効果などの多面的臓器保護作用を示すことが報告されている。我々は、ラット一過性前脳虚血モデルを使用し、脳虚血におけるアポトーシスを基盤とする神経細胞障害に対するPPARγ作動薬の効果とその脳保護機序について検討した。研究の結果、PPARγ作動薬であるピオグリタゾンの経口投与は、容量依存的に、ラットの海馬神経細胞死を抑制することが示された。また免疫染色の結果、PPARγ作動薬の投与は、脳虚血後の海馬CA1神経細胞における、リン酸化Akt、リン酸化Badの発現を増幅させた。Aktは、神経栄養因子などの刺激が加わると、PI3Kによりリン酸化され活性化し、次に、Bad、glycogen synthase kinase-3β(GSK3β)、caspase9などのアポトーシス誘導蛋白をリン酸化し、不活化することにより細胞生存を促進すると考えられている。よって、PPARγ作動薬の脳保護機序には、細胞生存シグナルであるAkt経路の活性化が関与することが示唆された。今後は、Aktの下流にあるGSK3β、caspase9の発現に関しても検討を行い、western blottingによりこれらのタンパクの定量化を行う。さらにPPARγ作動薬の、JNKやp53を介する細胞死促進シグナルカスケードへの作用も検討する。内因性機序により惹起されるアポトーシスに対するPPARγの作用を解明することは、脳梗塞の新しい治療の開発に寄与すると考えられる。
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