数理科学において、すべての振動子が他のすべての振動子と同じ強さで相互作用するいわゆる大域結合系では、集団全体としてのマクロな挙動、平均的振動を示す現象が生じるとされている。振動子各々が振動していても、お互いバラバラの位相で振動しているならば振動の効果はキャンセルされ、全体としての振動は見られない。しかし、振動子間の結合の形が適当ならば、振動子はお互い位相をそろえる傾向をもつ。この現象は、集団同期現象(固有周期のばらつきの具合が小さくなり、あるところで突然マクロな振動が発生するプロセス)として理解されている。近年、動物実験や定位脳手術のデータの解析により、パーキンソン病患者で観察される振戦などの症状は、大脳皮質-大脳基底核-視床運動連関ループに含まれる様々なレベルでの過剰な同期活動が原因であることが示唆されている。 そこで、本年度は、振戦症状を呈するパーキンソン病患者の視床から、同時に2カ所のLFPs(local field potentials)の記録を行った。Tremor症状が出現している時と認めない時とで、それぞれの電極で記録されたLFPs間のコヒーレンスおよび位相を解析した。振戦が出現すると同時に、視床Vim核内の8-15Hz帯域の同期活動は増強し、振戦が消失すると、直ちに同帯域の同期活動も減弱した。振戦が出現する前は同周波帯域の位相はばらついていたが、振戦の出現により位相がそろうようになった。 視床で捉えられたLFPsは、複数のニューロン活動の集合電位と考えられ、1つの振動子としておきかえる事が出来る。振戦が生じる前では、それぞれの振動子は独立して活動している。しかし、振戦が出現と同時に離れた距離にある(多分、広範囲の)振動子が一気に同期するようになる現象を見ているものと考えられる。
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