脳局所電位の振動現象は、リミットサイクル振動と呼ばれる特徴的な非線形振動で記述される。リミットサイクル振動の特徴としては、安定した振幅、周期があり、一時的に外から入力を加えて振動を乱しても時間が経つと安定な振動に戻る(リミットサイクル軌道に収束する)ことがあげられる。昨年度の研究で我々は、Fourier解析を用いて、パーキンソン病患者の視床の脳局所電位の活動を解析し、振戦が出現すると同時に視床運動感覚中継核内のlow beta帯域の同期活動は増強し、振戦が消失すると直ちに同帯域の同期活動も減弱することを報告した。そこで本年度は、視床で記録される脳局所電位のダイナミズムは非線形解析手法の1つであるphase space法でどう表現されるのかを検討した。 振戦症状を呈するパーキンソン病患者において、微小電極を用いて視床運動感覚中継核から脳局所電位を記録した。Phase spaceの座標軸は脳局所電位の振幅とその時間微分とし、振戦症状が出現している時と認めない時に分けて、脳局所電位の動的軌跡をプロットした。振戦症状が出現していない時、phase space上に現れる軌跡は、軌道の振幅が変動する傾向が見られた。しかし、振戦症状の出現時では、振幅の変動が減少して軌道が安定化し、リミットサイクル様の軌道を描いた。 以上から、異常なリミットサイクル様の周期運動を、人工的操作により不安定化させれば振戦は消失/減弱することが予想される。
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