近年、外的刺激に対する脳のダイナミックな反応を解析することにより、神経疾患の診断や治療の多くのヒントが得られている。最近、事象関連電位の生成のメカニズムにおいて、新たな仮説が提唱された。それは、刺激により脳局所電場電位の位相自体が変動することで体性感覚誘電位が生成されるという位相リセット仮説である。そこで、本研究は、パーキンソン病患者の視床vim核で観察される体性感覚誘電位をモデルに、位相リセット仮説がその生成に関与するか調べることを目的とした。 パーキンソン病患者に対する定位脳手術の術中に、正中神経刺激に対する体性感覚誘発性の局所電場電位(LFPs : local field tpoentials)を視床Vim核から記録した。得られたLFPsからθ、α、β、γ周波帯域の信号活動を取り出し、それぞれの位相変動を計算した。任意の正中神経刺激に対する誘発電位間の位相同期(位相リセット)がどの程度生じているかを評価するために、秩序パラメーター(order parameter)を算出した。 刺激後に、γ周波帯域の秩序パラメーターの一時的な上昇が最初にみられ、以降、β、α、θ周波帯域の順に秩序パラメーターの一時的な上昇が観察された(n=4/7)。 以上の結果から、視床Vim核で生じる正中神経刺激による誘発電場電位の生成には、位相リセットのメカニズムが関与することが示唆された。つまり、刺激前は、視床Vim核内において、それぞれLFPsは独立な(又は内的な)リズムで振動活動をしているが、一旦外界からの摂動入力(末梢神経刺激など)を受けると一定の潜時の後位相を同期(リセット)させる作用が働くと解釈される。将来的には、脳内で捉えられるLFPsなどの活動信号の位相を人工的に操作できる刺激プロトコールを見出す研究を進めることによって、より洗練されたNeuromodulationを開発する手がかりなると考えられる。
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