研究課題
悪性脳腫瘍の予後は近年の画像診断・手術技術などの進歩にもかかわらずほとんど改善しておらず、新たな治療法の開発が切望されている分野である。親水性ポリマーからなるブロック共重合体に疎水性の化学療法剤を結合させると、水中で安定な高分子ミセルを形成する。血管内に投与された高分子ミセルは長時間血管内に停留し、腫瘍部で透過性の亢進した新生腫瘍血管を経て病変部に集積、その後徐々にユニットポリマーに解離してコアの薬物を放出し効果を現す。高分子ミセル製剤はこのように抗癌剤のDrug Delivery System (DDS)として使用することができる。高分子ミセルの腫瘍特異的集積は、EPR効果(EPR: Enhanced Permeability and Retention)によると提唱されているが、実際には腫瘍選択性の改良のために抗体を結合型させたミセルなどの開発も行われている。高分子ミセル製剤が脳腫瘍治療にとって実用的かを検証するため、マウス脳腫瘍モデルを用いて本研究を行った。DACH-platin内包高分子ミセル化学療法剤の調製:分担研究者の片岡らの持つミセル粒子径を自在に変化させる技術を用い、粒子径30nmと70mのDACH-platinミセルの合成を担当した。今までの研究成果から、皮下腫瘍等において30nmミセルは腫瘍血管構築に影響されずに集積するものの、腫瘍内での滞留も短い傾向にある。一方、70nmミセルは血管構築を修飾する薬剤を併用することで毒性を低く維持しつつ腫瘍内への集積が有意に増加し、併用薬剤の効果の消失とともに腫瘍内に薬剤を滞留させることに関与することが示唆されている。本年度は、実際の脳内腫瘍モデルを用いて、皮下腫瘍と同様の手段で抗腫瘍効果の増強が得られるかを、主にSR-B.10A(マウス神経膠腫)脳内移植マウスモデルを用いて検証した。
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