研究概要 |
自己複製能と多分化能を併せ持つ幹細胞の存在が近年明らかになり、幹細胞を用いた再生医学への応用に関する研究が広く行われるようになってきた。一方、腫瘍細胞の中にも、一部に自己複製能を保ち、造腫瘍形成能の高い幹細胞の性格をもつ細胞群の存在が示唆され、このような無制限に分裂可能な能力をもつ"癌幹細胞"の概念が癌研究において注目を集めている。脳腫瘍においても,最も悪性である膠芽腫やその他上衣腫、髄芽腫など、いくつかの悪性脳腫瘍から脳腫瘍幹細胞(brain tumor stem cell ; BTSC或いはbrain tumor stem-like cells)が分離培養可能であることが報告されてきており、これらの特殊な腫瘍細胞が腫瘍の治療抵抗性,再発の主体媒体となっている可能性が考えられている。ヒトglioma細胞株を特殊な細胞培養環境にて(無血清培地+成長因子付加)培養すると、神経幹細胞の培養時にみられる浮遊細胞塊のneurosphereと同様なsphere形成がみられる。これらの細胞を、更に単独細胞に分離後同様の培養条件で培養すると、再びneurosphereの形成がみられ、この状態で継代することが可能であった。これらの細胞を特異的マーカーにて染色すると、CD133陽性細胞が認められ、また神経幹細胞に発現が認められるnestinも陽性を示す。これらの細胞の抗癌剤などの薬剤への感受性を検討するため、親株であるヒトglioma細胞株とともに治療し、治療効果をMTTアッセイを用いて評価した。親株は付着細胞であるのに対し、BTSCは浮遊細胞であり、同等な条件での比較検討は難しく、現在、様々な面での条件を変更・修正しながら、明確な定量的解析の最適化を検討している。同時に、既にBTSCとして確立された(論文化された)幹細胞株を他研究室からの供与を受け、マウスにおけるin vivoでの検討を進めている。
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