研究概要 |
自己複製能と多分化能を併せ持つ幹細胞の存在が近年明らかになり、幹細胞を用いた再生医学への応用に関する研究が広く行われているが、腫瘍細胞にも一部に自己複製能を保ち、造腫瘍形成能の高い幹細胞の性格をもつ細胞群の存在が示唆され、"癌幹細胞"の概念が確立しつつある。脳腫瘍においては、悪性脳腫瘍である膠芽腫を中心に脳腫瘍幹細胞(brain tumor stem cell; BTSC或いはbrain tumor stem-like cells)が分離培養され、腫瘍の治療抵抗性,再発の主体となっているとの仮説が提唱されている。我々の施設で手術にて摘出された膠芽腫をはじめとする悪性神経膠腫摘出標本から腫瘍細胞を分離し、特殊な細胞培養環境下(無血清培地+成長因子付加)に培養を行うことで、神経幹細胞の培養時にみられる浮遊細胞塊のneurosphereと同様なsphere形成が認められる腫瘍が得られた。これまでのところ、計19例の摘出腫瘍からこのようなBTSCの樹立を試み、最近の4例(現在樹立にむけての初期培養中)を除く計15例の内、6例の標本でsphere形成が認められた。継代をすることで、このsphere状の細胞塊は再現性よく継続培養が可能であった。これらの細胞は、神経幹細胞に発現が認められるnestinが陽性であり、BTSCである可能性が示唆された。更に幹細胞の検証のため、nude mouseの脳内に細胞を移植し、少数の細胞でも腫瘍を形成する能力をもつことを現在検討中である。加えて、これらの細胞の抗癌剤などの薬剤への感受性を検討するため、細胞を単層細胞として培養して治療する系と、sphere形成能の減少にて評価する系にて、各抗癌剤への耐性形質の有無を解析している。
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