研究概要 |
脳腫瘍幹細胞(Brain tumor stemcell,BTSC)は治療抵抗性をもち、再発の主体となっているとの仮説が提唱されている。本研究において、我々の施設で手術にて摘出された悪性神経膠腫摘出標本から腫瘍細胞を分離し、BTSCの樹立を試みた。これまで40症例で培養を行い、16例で培養が可能であったが、sphere形成が認められたのは10例であった。そのうち、実験に使用が可能となる見込みの株は4種類であった。これらの細胞は、神経幹細胞に発現が認められるnestinが陽性であり、BTSCである可能性が示唆された。さらに、共同研究を行っている岐阜大学副田先生からBTSCのX01S株を供与頂き、マウス脳内移植により脳腫瘍を形成することを確認した。X01S細胞は、in vitroで膠芽腫に対する標準治療薬であるtemozolomide(TMZ)治療に強い耐性を示した。MTTアッセイにて、TMZ200μMで増殖抑制率は8%に過ぎなかった。一方、神経膠腫細胞株のU251及びT98は、同濃度で各75.9%、41.1%の抑制率が認められた。新規の分子標的治療の一つに、Death receptorを介するI型アポトーシスを誘導するTRAIL/TRAIL受容体系シグナル活性化を図る戦略があり、本研究室ではこれまでTRAIL-R2(DR5)に対するagonistic monoclonal抗体(E11)による治療を研究してきているが、E11治療に対し、感受性の高いT98は0.05μg/mlで40%の細胞死誘導が認められたのに対し、X01Sは13%に留まり、アポトーシスに対しても耐性を示すことが示唆された。しかし、in vivoのマウス脳腫瘍モデルにおいては、X01S腫瘍に対するTMZ治療により、マウスの生存期間が延長する結果が得られている。TMZ耐性の主因と考えられているDNA修復酵素のMGMTstatusを調べると、X01S細胞はプロモーター領域のメチル化陽性(通常TMZ感受性を示唆する)であり、また本研究室で樹立したBTSCも3種中2種がメチル化陽性であった。しかも、うち1例は摘出腫瘍標本では非メチル化(TMZ耐性を示唆)であり、むしろBTSCの方がTMZに対する感受性がMGMTの観点からは高い可能性もある結果が得られた。これらの結果から、BTSCにおける治療抵抗性は単純な経路で規定されている訳ではなく、複数のシグナル経路の制御が総合的に作用していることが示唆された。今後、これらの経路の異常の有無を検証していくことが必要である。
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