LINUXをオペレーティングシステムにもつハードウェアと、LINUX上で起動する画像解析ソフトウエアDr.Viewを設置し、脳の拡散テンソルMRIより生成した軸索画像に段階的に画像処理を加えたものを脳病変を治療するための定位放射線治療計画機や開頭手術のナビゲーションシステムに統合する画像処理を行うシステムを構築した。次いで、前頭葉ブローカ野と側頭葉ウェルニッケ野を結ぶ言語の連絡線維である弓状束の近傍病変に対して過去に定位放射線治療を行った症例12例を選別した。拡散テンソルMRIより弓状束の軸索画像を描出し、上記システムを用いて過去に行われた治療計画にこれを統合した。治療後の言語系合併症の発生との相関について検討した結果、側頭葉部分の弓状束線維に対しては10Gy照射することによって高率に障害が発生していたが、前頭葉部分への照射では障害の発生例は1例も存在していなかった。このように、言語の入力を司る側頭葉部分は放射線への耐容線量が低く、出力を司る前頭葉部分は耐容が高いという、耐容線量の部位特異性を検出しえた。その理由として、言語機能は複合的な大脳白質線維の連絡および機能的な統合により営まれており、線維の部位により機能が異なるためと考えられる。過去の研究で入力線維である視放線は耐容線量が8Gyと低く、出力線維である運動線維は20Gyと比較的高いことがわかっており、これらの事実とも合致する結果であった。 また、副次的な研究結果として、治療計画に際して画像処理方法を工夫することによってより精密な治療が可能になることや、治療後の従来の画像診断方法に変わりより低侵襲であるMRIでの診断方法の有用性についても見出した。
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