研究課題
基盤研究(C)
脳腫瘍のうち最も分化度の低いglioblastomaは、治療に難渋する浸潤性悪性腫瘍である。エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列によらない遺伝子発現制御に関わる後成的修飾である。癌治療の観点では、エピジェネティクな異常は可逆的な反応であることから、その変化の修復は効果的な治療法になり得ると期待されている。本研究では、革新的なDNA解析装置として注目されている飛行時間型質量分光計MassARRAYを用いて、神経膠腫細胞株において、数々の遺伝子群のメチル化を網羅的にプロファイル解析した。この結果、A172、U87MG、U251MG、T98G、YH13、AM38、およびU138MGの7つの神経膠腫細胞株において、zygote arrest 1(ZAR1)のメチル化が高頻度で検出された。ZAR1は卵巣に特異的に発現し、卵細胞の形成に関与するといわれているが、癌の発生に関わるとの報告はなされていない。このメチル化はプロモーター領域以外のCpGアイランドに認められ、遺伝子発現上昇に関与していることが明らかとなった。正常脳では、メチル化は検出されなかった。脳腫瘍手術検体86例にて検討したところ、diffuse astrocytoma 7例全例(100%)、anaplastic astrocytoma 17例中16例(94%)、glioblastoma 29例中26例(90%)、oligodendroglioma 3例全例(100%)、anaplastic oligodendroglioma 3例全例(100%)、pituitary adenoma 10例中9例(90%)にZAR1のメチル化が認められた。ZAR1のメチル化はgliomaとpituitary adenomaに高頻度に検出された。特にgliomaではgrade 1以外のいずれのgradeでも極めて高頻度に認められており、その腫瘍形成に必須のエピジェネティクス変異と考えられる。さらに神経膠腫細胞株において、RT-PCRにてmRNAの発現解析を行ったが、ZAR1発現を認めることができなかった。ZAR1のメチル化は他の遺伝子変異や腫瘍形成過程における二次的な変化を反映したものと推察される。
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