研究課題
本年度は今までのデータを整理し論文を作成し発表した。とくに皮質下刺激による運動誘発電位について得られた知見についてまとめた。これまで報告してきたように、一次運動野を刺激し、脊髄硬膜外に留置したカテーテル型の電極から記録されるD-waveはシナプスを介さない電位であり、一次運動野が刺激された時のみ誘発され全身麻酔の影響を受けないため、術中の運動機能のモニタリングには非常に適している。この事実は本年度に記録を行った症例においても矛盾のない結果であった。さらに本年度は皮質下白質線維刺激によるD-waveの誘発を試み、その性質を明らかにすることに重点をおいた。一次運動領野を同定後、腫瘍摘出中に摘出腔内にて皮質脊髄路の刺激を行った。刺激はバイポーラ、モノポーラ両方を用いたが、バイポーラでの刺激ではモノポーラに比べD-waveを導出するのは非常に困難であった。記録された皮質脊髄路刺激によるD-waveの波形と伝導速度は、皮質刺激のものとほぼ同一であった。潜時はわずかに短い傾向があったが、皮質と皮質下の刺激点の距離の差から算出された潜時短縮として矛盾のないものであった。モノポーラを用いた刺激は刺激強度に依存して刺激範囲が拡大し、バイポーラでは刺激をアップしても電極間での電荷密度のみが上がる傾向があった。このため、モノポーラを用いて刺激を徐々にアップしていくと刺激部位から遠隔に存在する皮質脊髄路の存在を推測することが可能であった。また、刺激強度を25mAと一定にして様々な部位を刺激すると、皮質脊髄路までの距離に依存してD-waveの振幅が変化することがわかった。この結果から皮質下刺激のD-waveの振幅の変化を観察することにより、刺激点から皮質脊髄路までの距離が類推できるものと考えられた。以上の研究内容は、J Clin Neurophysiol 28:297-301,2011にすでに発表した。
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