本研究は、悪性骨軟部腫瘍の特徴として疾患特異的な染色体転座の発生メカニズムを明らかにするために、染色体転座を有する悪性骨軟部腫瘍細胞を用いて、DNA二本鎖切断修復に関わる分子異常を系統的かつ網羅的に明らかにすることを目的としている。平成21年度は、ユーイング肉腫細胞株SK-N-MC、WE-68細胞よりtotal RNAを抽出し、正常ヒト初代培養線維芽細胞MRC-5を対照としたDNAマイクロアレイ解析を行った。さらに平成22年度は、同様な染色体転座が観察される典型例として、慢性骨髄性白血病細胞株K-562について、末梢単核球を対照として同様な解析をおこなった。その結果、DNA二本鎖切断修復遺伝子の多くで、発現異常、とくに発現レベルの上昇が観察された。これら遺伝子の発現レベルの上昇がもつ病因論的意義は現時点では明らかではないが、疾患特異的な染色体転座を有する2つの独立した疾患において、共通な発現異常がみとめられたことは、染色体転座の発生メカニズムを考察する上で、極めて興味深い知見といえる。現在、このような特徴が疾患に普遍的な現象なのか、実際の臨床検体を用いて、免疫組織化学などによる検証を開始した。また、平行して培養細胞を用いた解析をすすめるため、SK-N-MC、WE-68細胞におけるDNA二本鎖切断修復遺伝子発現を免疫細胞化学により観察している。
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