神経系組織・細胞が発現する因子のうち、Repulsive Guidance Molecule(RGM)、Neogenin、Netrin、Unc5の発現をマウス骨芽細胞株MC3T3-E1およびマウス骨髄間質細胞株ST2において、RT-PCR法にて確認した。このうち、両間葉系細胞株にてRGMa、RGMb、RGMc、Netrin-1、Netrin-3、Netrin-4、neogenin、Unc5A、Unc5B、Unc5Cの発現をRT-PCR法にて確認できた。これらの因子のうち、Netrin-1に注目して、骨芽細胞分化への影響を解析したところ、Netrin-1は骨芽細胞分化を初期(分化マーカーとしてアルカリフォスファターゼ活性)および後期(分化の指標としてアリザリンレッド染色による細胞外基質石灰化)とも濃度依存性(0-250ng/mlに抑制していることがわかった。 Netrin-1の間葉系細胞への作用に関して、細胞内シグナル伝達系をWestern blot法にて解析・検討した。マウス骨芽細胞株MC3T3-E1を24時間血清飢餓状態にしたのち、250ng/m1のNetrin-1で刺激を加えたところ、Netrin-1投与後30分から60分にかけて、Focal Adhesion kinase(FAK)のチロシン残基のリン酸化、Srctyrosine kinase familyの416番目のチロシン残基のリン酸化、およびMitogen Activated Protein kinase(MAPK)の222番目のセリン残基のリン酸化の亢進が確認された。これらの変化は神経系細胞における、Netrin-1の細胞内シグナル伝達系の報告と一致していた。 以上の結果から、間葉系細胞においても、神経系細胞が発現しているNetrin-1などの分泌因子および、その受容体が発現しており、機能的には骨芽細胞分化に作用している可能性を示唆するものであった。また、これらの作用の細胞内シグナル伝達系も、これまで神経系細胞でのみ報告があるFAK、Src、MAPKを介して行われている可能性を示唆する結果が得られた。これら細胞内のkinaseのうち、SrcおよびMAPKのリン酸化亢進は骨芽細胞分化を抑制するという、我々のこれまでの結果および他の報告と矛盾しないものであった。
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