神経系組織や神経系腫瘍に発現する因子における骨代謝との接点の解析をおこなった。解析項目は、第1に神経系組織に発現し、解析がすすんでいるNetrin-1の骨芽細胞分化に対する影響、第2に神経系細胞、特に神経組織の支持細胞が分泌する物質の骨代謝への影響、第3に神経系細胞で増殖・分化に重要な役割が解析されているMEK5-Erk5細胞内シグナル伝達系の骨芽細胞内での作用であった。まず、Netrin-1の骨芽細胞分化に対する作用としては、細胞増殖には大きな影響を与えず、骨芽細胞分化を抑制していることを確認した(アルカリフォスファターゼ活性・アルカリフォスファターゼおよびオステオカルシンmRNA発現・細胞外基質石灰化にて評価)。同時にNetrinの受容体として考えられているUnc5A-Dの発現を確認したところ、Unc5A-Cが恒常的に発現していることを確認した。次いで、神経組織の支持細胞であるschwann細胞株や神経鞘腫より分泌される物質で骨形成に影響するものとして、Nogginを同定した。これら細胞株や腫瘍細胞の培養上清にはNogginが分泌されていることが確認され、これが神経組織周囲の骨形成抑制作用の一旦を担っていると推測された。一方、神経系細胞で重要な役割が示されているMEK5-Erk5シグナル伝達系は、骨芽細胞内にも存在し、このシグナル伝達系は骨芽細胞分化抑制い働いていることがわかった。しかし、一方で同様のMAPKシグナル伝達系であるMEK1/2-Erk1/2シグナル伝達系では、オステオカルシンの発現抑制を示していたのに対して、MEK5-Erk5系はオステオカルシンの発現促進を示しており、同シグナル伝達系はMEK1/2-Erk1/2系とは異なるメカニズムで骨芽細胞分化を制御しているものと考えられた。
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