本年度は、指節骨間関節形成を行う具体的な蛋白質の発現動態を明らかとするための実験を主に行ってきた。申請書に記述したようにGdf5mutantでは指節骨間関節は形成されず、Trps1 null mouseでも指節骨間関節の形成異常が認められる。そこでこれらのマウスを用いて、apoptosis関連蛋白質、関節マーカー、各種転写制御因子などの発現動態をIn Situ Hybridization法、およびReal Time PCR法により解析し、野生型と比較した。その結果、研究開始前に予想していたものとは異なり、apoptosis関連蛋白質には顕著な変動は認められなかった。またtunel染色においても顕著な差は見いだされなかった。一方で、いくつかの蛋白質に関しては、野生型マウスとの間に、発現量または局在の違いが見いだされ、これらがGdf5/Trps1によって制御されていることが示唆された。これらの中には滑膜のマーカー蛋白質、Wnt シグナリング関連蛋白質、転写制御因子などが含まれていた。これらは培養軟骨細胞でもGdf5/Trps1に応答して変動していた。 これらの結果は、指節骨間関節形成に関して、従来考えられていたようなapoptosisを中心としたメカニズムとは異なる機序が働いている可能性を示すと考えられる。現在、今回明らかとなった標的分子、とりわけ滑膜マーカー蛋白質がこのような新しい機序を担っている可能性があると考え、その具体的役割について主に組織学的見地から解析を行っている。また培養細胞を用いた関節形成モデルの構築も試みている。 また、本研究の過程でTrps1が腎尿細管形成、成体での腎線維化でも働いていることが明らかとなり、これについても併せて検討を行っている。
|