研究概要 |
胸・腹部大動脈瘤手術の際に行う大動脈遮断・解除は脊髄循環障害による対麻痺を含む重大な中枢神経系合併症を起こす危険がある。その予防と対策は麻酔管理上重要な課題である。短時間の先行する非致死的な虚血によって、引き続いて起こる長時間の虚血に対して生体は抵抗性(虚血耐性)を示すようになる。このプレコンディショニング効果にも性差があることが報告されるようになり、性ステロイドの神経保護作用との関連が想定される。脊髄虚血におけるリモートプレコンディショニング(短時間上下肢虚血)と性ステロイド(エストロジェン)投与の脊髄保護作用を比較するために下記実験を行い、上下肢の一過性虚血負荷によるリモートプレコンディションイングによって、脊髄組織酸素分圧の減少は減弱され、その効果はATP-sensitive K channel拮抗薬であるグリベンクラミドで拮抗されること、性ステロイド(エストロジェン;17ss-エストラジオール20μg)を脊髄虚血前に投与することにより、リモートプレコンディションイングでみられた脊髄組織分圧の低下抑制作用と同様の効果がみられ、性ステロイドがリモートプレコンディションイングと同様の脊髄保護効果を持つ可能性が示唆された。このエストロジェンの作用がエストロジェンレセプターを介する作用か否かを検討する目的でfulvestrant(エストロジェンレセプター拮抗薬; ICI 182, 780 1mg/kg)を前処置し、この脊髄保護効果がエストロジェンレセプターの活性化によることを証明した。
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