2007年のAHA/ACCガイドラインにおいて初めて吸入麻酔薬が心虚血リスクを有する患者の非心臓手術の維持麻酔にclassIIaとして推奨されるに至った。これは心筋虚血リスクを有する患者の非心臓手術患者の麻酔に吸入麻酔薬を積極的に使用する必要性が出てきたことを意味する。我々は吸入麻酔薬による心筋保護効果をラット心筋にマイクロダイアリシス法を用いて検証してきた。本法により心筋虚血による細胞障害の程度を心筋透析液の逸脱蛋白放出応答を測定することで血中濃度応答より鋭敏に評価でき、初年度は30分間の冠動脈閉塞時における心筋透析液ミオグロビン濃度応答をイソフルラン・セボフルランの両薬種別に濃度を変えて投与し、その応答を検証した。さらに、虚血前投与(preconditioning)および再灌流直前投与(post-conditioning)、さらには虚血前より再灌流期まで連続で投与した際のミオグロビン放出応答を比較検討し、虚血前投与がもっとも細胞傷害抑制効果があることが示唆された。さらに、セボフルランの虚血前投与は、30分間の冠動脈閉塞による心筋傷害後の残存心筋バイアビリティも温存していることが分かった。今後は吸入麻酔薬による心筋保護効果を増強する可能性のある治療法(酸化ストレス抑制剤、低体温、βブロッカー、迷走神経刺激等)を併用することで、吸入麻酔薬による心筋保護効果増強作用の有無を検証したい。また、細胞機能傷害の指標として心筋局所でのインシュリン-グルコース応答による解析も行い、心筋逸脱蛋白質濃度応答と同様の保護効果が得られるかを検証する予定である。
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