我々は、心臓マイクロダイアリシス法を用いて、吸入麻酔薬による心筋保護効果を検証し、以下の点を明らかにしてきた。(1)虚血・再灌流に伴う心筋傷害のモニター(虚血時間と心筋傷害の関係から)の確立(2)吸入麻酔薬種による心筋保護効果の相違と濃度・投与タイミングの模索(3)麻酔併用薬(麻薬・鎮静薬等)による吸入麻酔薬による虚血・再灌流傷害保護効果の修飾(増強効果)を検証してきた。当該研究の最終年である23年度は吸入麻酔薬による心保護効果を修飾する可能性のある心臓徐脈薬(ザテブラジン)の併用効果を調べた。その結果、ザテブラジン併用により心拍数を減少させても有意な心筋傷害抑制効果は得られなかった。次に、麻酔薬投与法別の心筋バイアビリティ温存効果の違いについて検証した。バイアビリティの測定方法として、心臓マイクロダイアリシス法を用い、心筋内に植え込んだダイアリシスファイバーに高濃度デシピラミンを投与した際のミオグロビン濃度応答を測定し、残存心筋バイアビリティの指標とした。この指標を用いて、1MACのセボフルランを冠動脈閉塞前に暴露した際の虚血再灌流傷害を観察し、その結果残存心筋バイアビリティは温存された。一方、再灌流直前に投与しても、残存心筋バイアビリティは温存されなかった。残存心筋バイアビリティから見た効果的投与法として1MACセボフルランの虚血前投与法が推奨される。また、この効果を別法で確認するために、インスリンーグルコース濃度応答にて検証を試みたが、測定感度が低く断念した。
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