腫瘍細胞におけるリドカインのアポトーシス誘導機序や局麻薬の種類による効果の違いは不明である。そこで、各局麻薬のアポトーシス誘導に関して培養腫瘍細胞(HL60:ヒト骨髄性白血病細胞)を用いて比較した。方法:アポトーシス細胞数は、アネキシンおよびヨウ化プロピジウム(PI)で二重染色し、フローサイトメトリー(FACS)を用いて測定した。ミトコンドリア膜電位をTMRMで染色しFACSで測定した。ミトコンドリアの活性酸素産生量をMitoSOXで染色しFACSで測定した。局所麻酔薬に暴露したサンプルからDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動でDNAフラグメンテーションの程度を検証した。さらに、局所麻酔薬によるアポトーシス誘導機序の一因として、局麻薬が細胞内でイオン化する過程で細胞内の水素イオンと結合することで細胞内がアルカリ化し、これによりミトコンドリアが脱分極し、ミトコンドリア経路のアポトーシスが誘導されると仮定した。これを検証すべく、細胞内のpHとミトコンドリア膜電位をHPTSおよびJC-1を用いて同時に経時的に測定した。 結果:リドカインは臨床使用濃度以下からHL60細胞にアポトーシスを誘導することを観察した。リドカイン暴露で、ミトコンドリアの膜電位、活性酸素産生量、カルシウム濃度の増加および細胞内ATP濃度の低下が見られた。CCCPなどミトコンドリア脱共役剤を用いた実験でもリドカインと同様の結果を得た。さらに、リドカインなどの局所麻酔薬の暴露で、細胞内が著明にアルカリ化するとともに、ミトコンドリアも脱分極した。これらの局麻薬による細胞内アルカリ化を酢酸やプロピオン酸などの弱酸で中和すると、ミトコンドリアの脱分極やアポトーシスは著明に抑制されたことから、局麻薬によるアポトーシス誘導機序の一因は細胞内アルカリ化であると結論した。
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