近年,発達脳に対する麻酔薬の影響が懸念され,社会的にもその関心が高まっている.24年度は吸入麻酔薬による導入期にみられる「興奮期」の発現解析に加え,日齢に伴う発達過程への吸入麻酔薬:Sevofluraneの影響を領域外シナプスより提供されるtonic GABA電流の変化により検討し,GABA電流を中心とした吸入麻酔薬の作用機序についても検討した.実験では日齢(P)3~35日のマウス脳スライスを作成し,大脳基底核線条体:Medium spiny neuron(MSN)からwhole-cell patch clamp法を用いて細胞内電流を測定した.電圧は0mV固定し人工脳脊髄液に灌流.その後picrotoxin添加によりtonic GABA電流を得た.またAmbient GABAの効果を検討するためにGABA transporter(GAT)の BlockerであるNO-711を添加してその影響を観た.その結果Sevofluraneの添加によりP3~P35で線条体MSNにおいてtonic GABA 電流が記録され,日齢を経るに従い大きくなりP28で平衡状態に達した.また全日齢を通じてtonic GABA電流の増強が観られたが,その度合いに日齢間で差は見られなかった.このように sevofluraneによりtonic GABA電流が増強されることから,吸入麻酔薬の作用機序としてtonic GABA電流の関与が強く示唆された.またGAT Blockerの添加によりtonic GABA電流が増強していたことからsevofluraneは内因性GABAに反応することが考えられた.これら結果を踏まえると,今回の実験から発達過程におけるGABA-A受容体サブユニットの構成変化にSevofluraneがtonic GABA電流を介して“脳抑制系機能”に強い影響を与えるように思われた.
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