ラット左心室筋よりミトコンドリアを過去の報告と同様な方法により分離抽出した。ミトコンドリアは様々な機能を有しているが、その主たる機能の一つに細胞のエネルギー源となるATPの産生がある。ホタル発光色素であるルシフェリンを用いルミノメーターにてATP合成速度を測定し、分離ミトコンドリアのATP産生に与える麻酔薬ポストコンディショニングの作用を検討した。 分離したミトコンドリアを一定時間低酸素に暴露、その後再酸素化し低酸素・再酸素化(虚血再灌流)前後でATP合成速度を測定し比較した。麻酔薬ポストコンディショニングは低酸素暴露再酸素化直前に揮発性麻酔薬を投与することで適応した。ATP合成速度は非ポストコンディショニング群においては低酸素再酸素化後に低下したが、ポストコンディショニング群ではその値が保持されていた。昨年度は同様の実験モデルにおいてミトコンドリアの呼吸能を測定したが、細胞質の存在しないミトコンドリア単独の状況において、ATP産生能もポストコンディショニングによって保持されている事が確認された。虚血再灌流後の心筋細胞障害は細胞内へのカルシウム過負荷が要因の一つとされている。ポストコンディショニングにおいてATP産生能が維持されたことにより、細胞膜や小胞体に存在するカルシウムATPaseなどのATPを用いる細胞内カルシウム濃度の恒常性を維持する機構が保持され細胞保護作用を発現すると考えられた。
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