実際の臨床麻酔では、複数の麻酔関連薬物を同時に使用し麻酔に必要な効果をえている。従来、薬物の組み合わせや投与のタイミングは、臨床医の経験と勘によって調整されることが多かったが、薬物動態と薬力学に関する知見が蓄積され、とくに薬物相互作用効果を予測することで、麻酔薬の使用量と副作用を最小限にとどめ、麻酔に必要な効果を最大限に達成する試みが行われている。本研究は、神経伝達ネットワークの並行回路モデルである「多経路多単位系モデル(Multi-Unit and Multi-Path System Model、以下MUMPSモデル)」を発展させ、麻酔関連薬物の相互作用の機序を明らかにし、臨床に応用することを目的とした研究である。単独薬物へのMUMPSモデルの反応性の式を発展させ、一般的な複数薬剤のMUMPSモデルへの相互作用をあらわす式を導出した。この式の解析から、(1)一般的なアゴニスト同士の薬物相互作用は相乗的であり、(2)作用機序がほぼ同一の組み合わせで相加的相互作用が見られること、(3)一部拮抗的作用を有する薬剤との相互作用で拮抗的相互作用が見られる可能性があることが分かった。以前に得られたパラメータから、Response Surface Modelを再構築し、平成22年度に麻酔作用機序会議(Mechanisms of Anesthesia Conference 2010)で発表した。また吸入麻酔薬の相互作用における相加的相互作用からの臨床におけるずれに関する報告を、国際麻酔薬理学会(International Society for Anesthetic pharmacology)において発表した。これらの結果は論文として投稿したが掲載に至っていない。また、臨床で使用している麻酔電子記録から薬物の投与情報を取得し、薬物動態モデルにより解析した結果を表示するアプリケーションを導入し、MUMPSモデルなどによる薬部力学・相互作用モデルと組み合わせて臨床での判断の補助とする試みもおこなった。
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