本年度の主な目標は、(1)筋弛緩薬の種類がマスク換気に異なる効果を及ぼすか、(2)サクシニルコリンによるマスク換気改善のメカニズムを調べる、(3)気道確保時に有利な呼吸ルートを調べ、それに影響する因子について検討することであった。 筋弛緩薬のマスク換気に及ぼす影響の研究 全身麻酔下に従圧式人工呼吸中の成人患者において、ロクロニウム(14名)あるいはサクシニルコリン(17名)投与前後で、口気道・鼻気道それぞれの一回換気量の変化を調べた。ロクロニウムを投与してもいずれの呼吸ルートにおいても一回換気量は全く変化しなかった。しかし、サクシニルコリンを投与すると特に口気道経由の一回換気量が線維性攣縮発生時から著明に増加しやがて減少するもののサクシニルコリン投与60秒後においても有意に増加を維持した。この口気道の一回換気量増加は、Body Mass Indexとは逆相関を示し、肥満患者では換気量増加は少ないと考えられた。 サクシニルコリンによる換気改善のメカニズム解明 サクシニルコリン投与時の咽頭気道開通性の変化を内視鏡を用いて6名の患者で調べた。オトガイ舌筋や軟口蓋、咽頭筋群の線維性攣縮開始後、口狭部が著明に拡大する現象がすべての患者で認められた。サクシニルコリンによる筋収縮で咽頭気道(口気道)が拡大することが換気改善のメカニズムであることが確認できた。 気道確保時の有利な呼吸ルート 8名の患者で気道確保時の換気量変化をそれぞれの気道ルートで調べた。下顎前方移動時には口気道が、頭部後屈時には鼻気道の換気量が増加した。 研究結果の一部は、Anesthesiology誌に投稿し、審査を受けている段階である。
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