研究概要 |
モルモット腹腔内に大腸菌内毒素であるLPSを投与することで敗血症モデルを作成した。 摘出した心臓を酵素処理し,単離心房筋標本を作製し,電気生理学的検討により次の結果を得た。1:活動電位持続時間が短縮した。2:L型カルシウムイオンチャネル電流を抑制した。3:遅延整流型カリウムチャネル電流を増大させた。また,これらの効果は同時に投与したNO合成阻害薬(L-NAME)により減弱したことより,炎症によりNOが過剰に発現した結果発生するものと結論した。また,iNOSの特異的な阻害薬であるEIT hydrobromideにより同様の結果を得たことより炎症によりおこるこれらの変化にはiNOSが関与しているものと思われた。 さらに,チャネルタンパク発現レベルでの検討をWestern Blot,RT-PCR,免疫染色にて行い,次に示す結果を得た。1:L型カルシウムイオンチャネルのα1Cおよびα1Dサブユニットの発現を抑制した。2:電位依存性 ナトリウムチャネルタンパクであるNaV1.5は抑制しなかった。3:遅延整流型カリウムチャネルタンパクであるKv2.1の発現を増大させた。4:心房筋内でのニトロチロシンの発現が増大した。5:カリウム電流の増大はchromanol 293Bで抑制されるが,E-4031では抑制が小さいことからIKrではなく,IKsの関与が大きいものと考えられた。 これらの結果より,心房筋において炎症によるNO,とくにiNOSの過剰発現によりチャネル末端におけるチロシン残基のニトロチロシン化が発生し,カルシウム電流が抑制され,さらにカリウム電流が増大することで活動電位持続時間が短縮し,相対的不応期が短縮することで,頻脈性不整脈が発生しやすい環境が形成されるものと推測された。
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