本研究の主眼は疼痛のニューロモジュレータとして機能する脳由来神経栄養因子(BDNF)のエクソンに注目し、エクソンの転写を抑制するデコイを作成し、難治性疼痛治療の基礎を確立することである。前年度において、BDNFエクソン1をターゲットとし、デコイ候補を作成し、DNAデコイの効果を炎症性モデルにおいて脊髄内投与で確認した。 本年度は、その効果を神経損傷性モデルで検証するとともに、安全性の確認と効率化を目指した。まず効果を確実にするために脊髄内投与法を改善した。BDNFデコイの投与を損傷モデル作成後5日目の一回投与では効果が少なく、連日3回投与することで効果が一定期間持続することを確認した。次に投与量に関しても検証を重ね、低容量、中容量、および高容量を投与した結果、高容量がより確実に痛みを抑制することを確認した。しかし、効果持続期間に関しては、高容量投与群でも、デコイ最終投与日から3日間ほどしか有意な鎮痛効果を示さなかった。また、安全性に関しては特に異常は認められず、損傷対側にも効果を及ぼすことはないことを確認した。 以上、結果としては神経損傷疼痛モデルにおいて、BDNFエクソン1デコイの投与は鎮痛効果を示し、今後難治性疼痛に対する遺伝子療法の一つの手段となる可能性を示したが、その効果持続は短く、効果の限界もみられた。BDNFのノックダウンは痛みの遺伝子療法のターゲットとなる可能性は示したが、さらなる研究が必要である。 上記の結果は論文で報告した(Decoy strategy targeting the brain-derived neurotrophic factor exon I to attenuate tactile allodynia in the neuropathic pain model of rats. Biochem Biophys Res Commun.2011 ; 408 : 139-44.)。
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