研究概要 |
周術期では、手術手技が侵襲であることは明らかであるが、手術に必須である麻酔薬、特に全身麻酔で使用される吸入麻酔薬が直接的に自然免疫、獲得免疫を抑制することが知られている。これまでに、おもに免疫への影響として吸入麻酔薬は静脈麻酔薬に比べ、免疫抑制作用が強いことや(Inada et al. Anesthesia, 2004)、オピオイドではモルヒネが、免疫抑制作用が強いことが明らかにされてきた(Franchi et al. Brain Behav Immun., 2007)。 本研究のプライマリ・エンドポイントは免疫不活化状態にある担癌患者において侵襲と発癌、および侵襲と癌進展との関係を明らかにすることにある。自己免疫能を司る細胞成分として末梢血液中樹上細胞が存在し、この機能破綻が発癌および癌進展に寄与することが推察されている。CD86が同細胞の表面に発現している。このCD86を標的遺伝子とするmicroRNA3XXの発現の制御機構のひとつとして、遺伝子多型(rs1728XXXX)について注目している。 われわれは大腸癌および対照症例の合計4908例を集積し遺伝子多型のアレイデータを有する。また、全大腸癌症例のうち、原発巣を採取しLaser microdissectionにて癌細胞を採取しえた症例は108例あり、抽出したgenomic DNAおよびtotal RNAからCGHアレイおよび発現アレイを施行した。その結果、108例において、rs1728XXXXが、microRNA3XX上に存在するが、同多型の頻度は大腸癌108例中105例がnon-risk alleleであり、3例がrisk alleleであった。また、3例のrisk alleleにおいて、miR3XXの低発現を認めた。実際にCD86の過剰発現により、樹状細胞の構造破綻を来し居ているか、さらにrs1728XXXXおよびmiR3XX発現が予後規定因子となりうるか否かについては、今後明らかにしていく予定である。遺伝子多型という本質的な個人差により侵襲に対する感受性が規定されるが、それを制御するmicriRNAをさらに明らかにしていきたい。
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