本年度の研究実施計画である麻酔薬とインスリン分泌および反応性に関する検討に関して、手術侵襲と耐糖能の変化を検討した。結果として、早期の糖利用を推定するバイオマーカーである1.5AGが手術により低下し、手術侵襲で糖の利用が制限されることが明らかとなった。しかしながら、1.5AGの低下は、糖尿病患者では顕著ではなかった。これは、糖尿病患者では、もともと1.5AGの値が低いために、さらなる低下を招来しにくいためと思われた。今回の研究結果により、耐糖能異常を有さない一般手術患者において、手術侵襲が糖の利用率を低下させ、身体に負荷をかけている事実が客観的に証明された。今後は、このマーカーの変化を用いて、手術侵襲と耐糖能の改善を図る治療法の検討が必要である。今回の研究成果は、国内外の学会はもとより、早急に論文としてまとめ、世界的に向けて発信する予定である。 血管平滑筋に関する研究は、日本麻酔科学会総会で開催されたJournal of Anesthesiaのリサーチシンポジウムにおいて、ヒト血管における反応性と題して、血管収縮と弛緩のメカニズムに関して一般麻酔科医を対象として講演した。またその内容をJournal of Anesthesiaへ投稿し、啓蒙をおこなった。 麻酔薬とアディポネクチンとレプチン分泌に関する研究テーマも課題として挙げていたが、上記実験により時間的余裕がなくなり、十分に検討することができなかった。今後の検討課題として残された。
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