神経損傷の機序は様々考えられるが、今回の研究では神経絞扼モデルを採用した。ラット大腿中央部あたりで坐骨神経をクロム処理された糸で緩く絞扼すると、神経障害性疼痛が観察される。行動学実験において、CCIラットは、安静時の自発痛や熱痛覚過敏が観察された。温度覚にはTRPファミリーの受容体が関与していることが考えられ、その中でもTRPV1が熱痛覚過敏に関与する可能性がある。温度の行動実験では温水、冷水に足を付ける方法で実験を行ったが、温度に反応しているのではなく水に付けることで反応していることも考えられ、ホットプレートや、ペルチエ素子を用いた冷温板の開発も必要と考えられた。電気生理学的実験では、足底を神経支配していると考えられる培養神経細胞において、侵害刺激である酸とカプサイシンへの反応を調べた。これまで研究していた消化管を支配している一次感覚神経細胞と反応性が異なり、カプサイシンに対して反応する一次感覚神経細胞が少なかった。カプサイシン1μMへの反応性から、TRPV1の分布は相対的に少ない可能性が考えられる。pH3-6.5の酸への反応性も、電流の反応パタンからは異なるイオンチャネルが関与していると考えられたが、イオンチャネルの同定にはできていない。 TRPV1の反応性について評価していたが、研究期間中に他の研究室から一次感覚神経に分布するTRPA1を阻害することで、皮膚の神経原性炎症を抑制し、脊髄での神経情報伝達の調節に関与する可能性が報告された。TRPA1はTRPファミリーに属する受容体で、TRPV1が侵害熱・カプサイシンに対して反応する一方、冷受容器の他、マスタードオイル、シナモンなどの化学物質に対して反応する受容体として考えられている。したがって冷温の研究を行うべきであったと考えている。
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