研究概要 |
(目的)人工心肺を使用した開心術の周術期では,血小板機能低下が原因で止血に難じる事がある.本研究は血小板内情報伝達系の変化,特に血小板細胞内p38MAPK経路を中心とした細胞内情報伝達系の経時的変化とその役割に着眼した. (方法と結果)本研究は,当大学倫理委員会の承諾のもとで施行した.トロンビン刺激による血小板細胞表面抗原PAC-1,P-selectinの発現は人工心肺離脱後に低下し,p38MAPKのリン酸化は有意に上昇した.また,血小板膜表面のGPIbおよびPAR-1受容体の発現は低下した.細胞死シグナルであるActive-Baxは人工心肺離脱後に有意な上昇を認め,血小板内ミトコンドリア内Chytochrome Cの有意な低下を認めた.以上から,人工心肺刺激によりp38MAPKが活性化されBak/Baxが上昇,Baxはミトコンドリアに移動し,ミトコンドリア依存性の細胞死の過程が起きると考えた.次に健康成人から血液を採取,全血または洗浄血小板溶液を用いて人工心肺模擬負荷試験を行ったところ,トロンビン負荷実験とずり応力負荷実験ではGPIbと血小板ミトコンドリア内Chytochrome Cの有意な低下を認め,p38MAPK,Active Bax,Bax,Bak,TACEは,有意な上昇を認めた.次にBaxのミトコンドリアへの移動阻害薬FurosemideとmPTP阻害薬のCyclosporin Aの単独投与を行ったところ,血小板ミトコンドリア内Chytochrome CとGPIbの低下が有意に抑制され,TACE阻害薬のTAPI-1単独投与ではGPIbの低下が有意に抑制された. (結語)人工心肺手術に伴う血小板機能の低下は,血中トロンビン濃度の上昇とGPIbの発現低下が主に関与していると考えた.また,血小板細胞内情報伝達系ではBaxの上昇とBaxのミトコンドリアへの移行が関連していることが示唆された.血小板の機能維持のためには,血小板内のBaxの制御が重要であると考え,今後BakおよびBax阻害薬の新薬開発や臨床応用が期待される.
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